●土着品種と国際品種の共存 テロワールによりフォーカスしたブドウ栽培
イリアとアハイアのワイン地域を巡ると、歴史の古い畑から新しい畑までが美しく広がり、そこには優れた土着品種と国際的な品種が共存しています。また、標高の低い場所から高い場所まで幅広くブドウ畑が広がり、高くそびえる山々から、すぐ近くに海岸線を望むという劇的な景色の変化に驚きます。こうした優れたテロワールと時代を超越した両地域に魅了されたのが、新世代のワインメーカーです。彼らはアハイアとイリアのワインを確立するための“魔法”を使って、その魅力を世界中に発信しています。過去20年間にわたってサステイナブルな農法が目覚ましく進み、ブドウ栽培とワイン醸造の両面において非常に多くの興味深い動きが続いています。

特にここ数年を通して見られる大きな変化は、テロワールに大きくフォーカスし、これまで以上に畑を重要視するようになったことです。生産者はテロワールの独自性をより引き出すことに注力し、それを明確に語るワインを造り上げることに情熱を注いでいます。近年、醸造技術の高まりとその自信が確固なものとなったことで、ブドウ畑におけるテロワールや、これまで手付かずのままだった土着品種の将来性などに、奥深く目を配ることが可能となってきたのです。

●サステイナブルなブドウ栽培 オーガニックやビオディナミの実践
アハイアとイリアには異なる個性もありますが、共通するのは地中海性気候の恩恵をうけ、ブドウ栽培にとって最上の条件に恵まれていることです。特に高地は有機栽培に適していて、多くの生産者がブドウ畑における生物の多様性に努めています。これはまた、ブドウの栽培にも大きく関連し、除草剤や化学物質の散布を制限するサステイナブルな農法を実践する生産者や、オーガニックやビオディナミ農法を行う生産者もいます。従来の生産者たちでも、この地域の優れた気候条件のおかげで、多くの介入を必要としません。それはテロワールの個性を高めることにもつながります。

●古木と伝統的な栽培法を守り、より質の高いワインを
エギアリアの高地のブドウ畑には、驚くほど高い樹齢のブドウが今も栽培されています。こうしたブドウからは、凝縮感があり深い味わいのワインが生まれます。またエギアリアでは、同じブドウ畑で異なる品種を一緒に栽培する、“混植”という昔ながらの栽培法もいまだに行なわれています。この方法で栽培されたブドウは、ミネラルが豊かでテロワールの味わいがより前面に出たものとなります。エギアリアは単に優れたワイン生むだけでなく、こうした古くより受け継がれた古樹と伝統的な栽培法を守り続けてきたことも称賛に値します。

中でもエギアリアが誇る古木のロディティスは、ゴブレ仕立てで栽培されます。同じ畑でいくつかの異なる天然クローンのブドウが栽培されます。ゴブレは干ばつに強く、晩成型のロディティスにとっては理想的な仕立て方法です。また、ロディティスは樹齢が高くなるにつれ、自然と収量が抑えられ、それによって複雑さと深みが加わり、表現力が豊かで骨格のしっかりとしたワインが出来上がります。

●土着品種の可能性を引き出すクローン研究
樹齢の古い畑はまた、クローン研究のための「ブドウの母」を提供することができます。近年ではロディティスやマヴロダフニなど土着品種のさらなる可能性とユニークさをより引き出す研究が続けられています。クローン研究の最初の結果に基づいたブドウを植え付け、土着品種のもつポテンシャルをよりよく理解することに活用していきます。いくつかのワイナリーが率先してクローンの研究を行っており、それは多様性のあるアハイア地域の中でもエギアリア地区のようなサブゾーンを特定することにも活かされました。またこれは、利用可能な異なるテロワールを完全に理解することにも役立ちます。

●食用レーズンの高い栽培技術を活かして成長
アハイアとイリアのワイナリーの成長の要因は、食用のレーズンの産地としての古い伝統があったことにもあります。ギリシャのこの両地域やザキントス島は食用レーズンの一大産地で、ブラック・オブ・コリントが主要品種です。質の高い食用レーズンに使うブドウは非常に低収量で栽培され、厳しい剪定を必要とし、その優れた技術はワイン用のブドウ栽培にも活かされました。高品質のワイン造りを目指すワインメーカーたちに技術は伝えられ、それは両産地の成長に繋がっていったのです。

涼しい気候のブドウ栽培―エギアリア丘陵部

エギアリアの丘陵部は、異なる斜面や土壌や高度をもつ、山岳テロワールです。ギリシャで最も標高の高い畑(最高海抜1050m)もこの地域でみられます。その畑は同じ地区に集中しているのではなく、急峻な丘陵部の広範囲に断片的に広がっています。そのため耕作条件は非常に厳しいものとなります。しかしそれでも、高地の冷涼な気候で栽培されるブドウからは、フレッシュで素晴らしくアロマティックな白ワイン、さらにはエレガントな赤ワインが生まれ、最適な栽培条件となっています。偉大なワインの要因に、テロワール、個性、ユニークさなどを含むとしたら、エギアリアの丘陵部は、まさにその概念に当てはまっているといえます。

エギアリアは、アハイア県の東から中心部まで広がり、車で30分も内陸に走れば、標高1000mの古いブドウ畑から美しい海を眺めることができます。標高の高さは冷涼な中気候を生み出す重要な役割を果たし、ギリシャでも数少ない北向きの畑があることも特徴です。こうした、標高が高くダイナミックで変化に富んだ地形、ミネラル豊富な痩せた土壌、海に近く、北向きのブドウ畑は、ギリシャの基準からみても大変ユニークなテロワールです。
またエギアリア丘陵地は、年間を通じて「天然のエアコン」のような涼風がパトライコス湾とコリントス湾から吹き寄せ、ブドウ畑の湿気を吹き飛ばします。そのためブドウはゆっくり成熟し、真夏でも過熟になりません。さらにブドウの病気も防ぐため、自然と有機栽培が可能となります。エギアリアはこうしたすべての要因により、ギリシャ全土のブドウ栽培地の中でも、かなり涼しい特異な中気候が形成されます。